【100時間クリアレビュー】『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』オープンワールドの再構築に挑んだ傑作【ニンテンドースイッチ】

「ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム」は2023年5月12日に発売され、累計3000万本以上を販売した「ブレスオブザワイルド」から約6年ぶりの続編として世界中のゲーマーが待ち望んでいました。その期待を裏切らず、これまでにない新鮮なゲーム体験を提供しています。

オープンワールド

オープンワールドゲームが市場を席巻している現在、なぜこれほどまでにプレイヤーの心をつかむのでしょうか。2023年現在、ゲームの歴代売上本数トップ50の中には約15本ものオープンワールドゲームが含まれています。3本に1本がオープンワールドという現象を考えると、その人気は否応なく明白です。

オープンワールドゲームがユーザーの心をつかむ要素として考えられるのは以下の3つです:

  • プレイヤーの自由度とゲーム側の強制力のバランス
  • 不安感とワクワク感が共存するゲーム体験
  • プレイヤーの好奇心を刺激し、関心を持続させるゲームプレイの工夫

その中でも、不安感とワクワク感、努力と報酬のバランスは、特にオープンワールドの魅力を最大限に引き出します。

ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドの影響

オープンワールドゲームのターニングポイントとして「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」は欠かせません。その革新的な要素はオープンワールドゲームの新たな方向性を示し、後続のゲームに大きな影響を与えました。自由なシナリオ攻略、従来型のダンジョンやアイテムの廃止、物理演算のシミュレーション、高低差のあるマップデザインなどが、その一例です。

ティアーズオブザキングダムの挑戦

「ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム」は、オープンワールドの究極を達成した前作の後継者として、さらなる挑戦を選択しました。具体的には、フィールドの充実、4つの新能力、キャラクター造形の進化といった新要素が導入され、再びオープンワールドというジャンルを刷新する道を選びました。

本作はプレイヤーに新たな不安感とワクワク感を提供し、これまでのオープンワールドの範囲を拡大した。この試みが成功したかどうかはプレイヤー自身がゲームを体験することで確認できるでしょう。

フィールドの拡大

今作、「ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム」は、ハイラルの大地がベースとなり、上空と地下へとフィールドが広がっています。

  • 上空に広がる古代文明の遺産、空島
  • ハイラルの大地に点在する地上絵やほこら
  • その深く底で漆黒に続く地底

これらは全てシームレスに連続しているため、ゲームでは実質的に前作の3倍近い世界が広がっているといえます。こうした広がる世界そのものがまさにゲームの主役、メインコンテンツとも言えるでしょう。

メインシナリオ

今作のメインシナリオでは、以下の要素が絡み合いながら進行します。

  • ゼロの探索
  • 4種族との開口と問題解決
  • ガノンドロフの調査
  • マスターソードの復活

これらのシナリオは空島、地上、地底の探索と連動するように進行します。新機能や収集物といった要素は、基本的に全てこれらの探索に集約するように作られています。

チュートリアルとスロースタート

ゲームは前作における始まりの地、第一の空島から始まります。空島でのチュートリアルや地上での前作ベースの冒険はスロースターター気味で、やや退屈に感じる部分もあります。しかし、10時間程度経過し自由な空島の探索や密度の濃い地上探索、地底探索が始まると、いい意味での不安感とワクワク感でいっぱいになります。

ハイラルの大地と新能力

地上に広がるハイラルの大地は、前作のゲームプレイをベースにしつつ、ハイラルに起きた天変地異によって、ダイナミズムを持つ世界へと変貌しています。

新たな探索要素が散りばめられ、リンクには以下の4つの新能力が与えられます。

  • 天井を通り抜けられる「トーレルーフ」
  • フィールド上のものを組み合わせられる「ウトラハンド」
  • モノの移動を逆再生できる「モドレコ」
  • 装備に素材をくっつけ新しい武器を作り出せる「スクラビルド」

特に地上では、「トーレルーフ」と「モドレコ」が大いに活躍します。

空島とゾナウ文明の遺産

空島には眺望台やモドレコによってシームレスにひとっ飛び可能で、探索要素が充実しています。ゾナウ文明の遺産が多く残されており、これらの遺産は「ゾナウギア」と呼称されます。

心能力の一つ、「ウルトラハンド」を活用することでリンクの冒険に役立ちます。例えば、丸太と扇風機型のゾナウギアを組み合わせれば、推進力を持つイカダを作れたり、自分の盾にロケット型のゾナウギアを装着すれば上空へと飛べたりします。

地底の世界と新たな探索の形

地底こそが「ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム」の新たな魅力と言えます。地上や空島とは一線を画す地底は、これまでにない探索体験を提供します。前作や他のオープンワールドゲームを多く遊ぶユーザーにとっては、地上や空島の探索はある程度予想できる範囲だったかもしれません。しかし、地底は全く異なります。

  • 地底へはハイラルの各地に配置される巨大な穴から入ることができ、地上と同規模のフィールドが広がります。
  • 拠点となる発光植物のようなエリアを除き、全てが漆黒に包まれています。
  • そのため、探索時はプレイヤー自身が明かりを用意しなければならず、視界がほぼ一切開けていません。
  • 暗闇の中では、リンクの振動力もうまく活用できず、赤く発光する敵くらいしか見えません。

これらの特徴により、地底は非常に心細く不安な探索体験を提供します。しかし、その一方で、新たな未知の世界への期待感やワクワク感も増大させます。

新たな能力

今作では新たに「トーレルーフ」、「ウルトラハンド」、「モドレコ」、「スクラビルド」の4つの能力がリンクに備わっています。前作では「リモコン爆弾」、「マグネキャッチ」、「ビタロック」、「アイスメーカー」の4つの能力が用意されていましたが、これらは謎解きのための限定的な能力として機能していました。対して今作の4つの能力では、リンクの身体機能やプレイヤーの認知機能を拡張させるメタ的な役割が付与されています。

特に、「トーレルーフ」はプレイヤーの視点ありきで、リンクの身体は重要ではなく座標だけの存在であることを感じさせます。一方、「スクラビルド」はリンクが身につける装備と別の何かを組み合わせ、新たな武器や効果を生み出せる能力です。これにより、前作では使いすぎると壊れるという制限があった武器も、再利用や変化の機会が増えています。

武器の扱いについて

前作では、どんなに強力な武器でも耐久値が設定されており、使いすぎると壊れてしまうため、強い武器を拾ってももったいなくて使えないという状況に悩まされるユーザーも多かったでしょう。今作でも武器の耐久値自体は残っていますが、スクラビルドによって一つの武器へのこだわりは薄くなり、武器の再利用や変化の機会が増えています。そのため、武器の重要度を下げるという、任天堂らしい逆転の発想で指針されています。

キャラクター造形と物語の連続性

「ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダム」は、シリーズでほぼ初めての完全な続編となっています。その結果、前作からのフィールドの連続性が随所で感じられます。前作では、薬剤の影響下にあったエリアで人々がテントを張って生活していたり、居住エリアが拡大していたりと、人々の生活が戻り始めています。また、ハイラルの大地に住む他の種族、例えばゾーラの首都王子の成長が垣間見えたり、インパが旅をしていたりと、明確に数年後の世界であることが強調されています。

NPCの生命感

また、シナリオに直結するキャラクターの前作との繋がりも魅力的ですが、ハイラルの社会に溶け込んでいるNPCのキャラクター造形も素晴らしいの一言です。今作では新規で登場するNPCも多くいますが、前作に登場したNPCの多くも登場しています。彼らは無意味なテキストを話すだけのキャラクターではなく、前作のサブストーリーやキャラクター設定を引き継ぎながら、自然に会話を重ねています。

シリーズ作品としては、2000年に発売された「ゼルダの伝説 無印の仮面」で初めてキャラクターの生活、ゲームの中に生きるNPCの人生が描かれました。この作品はキャラクターが生きていることを初めて実感した作品で、その衝撃は今でも鮮烈に記憶しています。今作でも、前作から連続する舞台で社会を営む人々の人生を垣間見られます。

ゲーム体験の変革

そして、新たな4つの能力が今作の最重要な要素としてゲーム体験を変えています。しかし、これら4つの能力は、リンクとプレイヤーのサポートであり、空島や地底の3つの巨大なダンジョンを攻略する道しるべに過ぎないと感じました。

前作がオープンワールドというゲームジャンルに対する脱構築であったとすると、今作は「ブレスオブザワイルド」の積み上げた記号的な体験を用いて別のゲームとして組み上げたような驚異的な想像力を感じさせます。

「ティアーズオブザキングダム」はオープンワールドとしての変革を再度起こしたのか、その判断はこの後の歴史が下すことになると思います。
ですが、記憶を消して遊びたいと「ブレスオブザワイルド」に感じた時と同じかそれ以上の不安感とわくわく感に満たされているのは紛れもない事実です。